筋トレを始めたばかりの方にとってはトレーニング種目の名前や筋トレ用語など聞き慣れない単語ばかりです。
当たり前のように筋トレ用語を使われても意味が分からないので混乱してしまいますよね…。
本記事では、筋肉が力を発揮している状態のことを指す「TUT(タイムアンダーテンション)」という言葉について説明していきたいと思います。
TUTの考え方を理解して、より効果的なトレーニングを行っていきましょう!
本記事は以下のようなことを考えている人向けです。
- TUTって何の略なのか知りたい!
- TUTとは何か知りたい!
- TUTがトレーニングにどう影響するのか知りたい!
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筋トレにおける ”TUT” とは?

まず始めに、「TUT」とは何を意味するかについてです。
TUTとは、“Time Under Tension”(タイムアンダーテンション)の頭文字をとったもので、“筋肉が緊張下にある時間” のことを指します。
筋肉は、筋肉の両端が
- 近づく場合(短縮性収縮)
- 離れる場合(伸張性収縮)
- 変わらない場合(等尺性収縮)
で力を発することが出来ます。
TUTの “筋肉が緊張下にある状態” とは、つまりこの “筋肉が力を発している状態における時間” のことを指します。
筋トレにおけるTUTの考え方

動物の身体というものは便利なもので、運動を行う際には直接身体を動かす筋肉以外にも骨や関節が身体を支える役割を果たします。
例えば、ヒトが直立している状態では筋肉だけがフル稼働しているわけではなく、骨格が姿勢の保持を手助けしてくれています。
トレーニングを行っている時も同様で、負荷が筋肉ではなく骨格に乗っている状態があります。
ですので、TUTを大切にするということはトレーニングの1セットの間に “筋肉に” 負荷が乗っている状態を長く保つことで筋肉への刺激を最大化させようという考え方です。
TUTの具体例
ここでTUTの具体例を腕立て伏せを使って簡易的に考えてみます。
腕立て伏せを行う場合、セットポジションから(STEP1)身体を下ろしていき(STEP2)押し上げる(STEP3)といった工程をとります。

セットポジションでは身体を保持するためにある程度筋肉が使われているものの、骨格で身体を受け止めている部分も多いです。
ですので、STEP2・STEP3でどれだけ時間が掛かったかというのを腕立て伏せのTUTとします。
例えば、腕立て伏せを10回行う場合で考えてみます。
下ろすときに1秒、上げるときに1秒かけた腕立て伏せではトータル20秒間筋肉が緊張状態にあったと言えます。
同様に、下ろすときに2秒、上げるときに2秒かけたらトータルでは40秒となります。
同じ10回でもトレーニング効果が高いのはどちらの方に思えるでしょうか?
TUTの長さは筋トレにおいて有効か

結論から言うと、TUTの長さ単体では筋肉の成長に大きな変化を及ぼさないというのが現在までの見解です。
2019年の研究ではTUTは筋力アップや筋肥大に直接大きな影響を与えないと報告されました。
著者らは、TUTという考え方がトレーニングテクニックとしては有効ではあるものの、より集中して自身を追い込むことが出来るかが最も重要であると述べています。
以上で例に挙げた1秒1秒と2秒2秒で10回というのも、自分を追い込むために負荷を上げるものとしては2秒2秒の方が効果的かもしれませんが、時間の長さ自体が成長度に関わっているわけでも最適な時間があるわけでもないということが示唆されたということです。
TUTが効果を上げた例
とは言っても、TUTの考え方をトレーニングに組み込むことは決して間違いではありません。
先に述べたようにトレーニングテクニックとしては有効なものですので、効果的に使うことが出来ればトレーニングの質を上げることが出来ます。
例えば、2016年の研究結果では伸張性収縮(いわゆるエキセントリック収縮、トレーニングの動作で元に戻るとき)の時間を2秒長くした場合にトレーニング効果を上げることが出来る可能性があると示唆しています。
この実験ではエキセントリック時に時間を掛けることで筋活動や乳酸生成の対応が上昇したそうです。
つまり、適当にRep数をこなすのではなく時間を意識して行うことに効果はありそうです。
筋トレ初心者はTUTを活かすべし!
以上の結果を踏まえるとTUTは普段のトレーニングに生かすことが出来そうです。
エキセントリック時に時間を掛けることで筋活動が上がるということは、よりその動作で必要とされる筋肉を使うことが出来るということなので、自分の筋肉を上手く使えることが出来ない初心者は特にTUTという考え方を活かすべきです。
トレーニング初心者では、筋肉が無いというよりも自分の身体を上手く使えない・筋肉を使いこなせていないという場合が多いです。
例えば筋トレをしている人が胸をピクピクさせることが出来るのは、胸に筋肉があるからだけではなく胸の筋肉を意識的に動かせるように身体が適応しているからです。
”TUTを長くする=使っている筋肉を意識する時間を長くできる” という風に考えてトレーニングを行ってみるのが良いと思います。
筋トレでより効果を得るためには、おざなりに回数をこなしたり重さを扱うのではなく集中して行うことが何よりも大切だということなので、エキセントリック時に時間を掛ける場合でも自分の筋肉が伸びていることを感じながら行いましょう!
また、トレーニングにある程度慣れて人でも新しい種目や初めて行う種目では特にTUTを意識すると良いと思います。
初めての種目ではどこの筋肉に効くのか分からない場合も多いので、ゆっくり丁寧に行うことで筋活動が高まります。
【実際にやってみた】TUTとトレーニング強度の間に見える興味深い関係

過去の記事で負荷の設定についてトレーニング強度と最大反復回数を使った説明をしました。
この記事では最大筋力を重量や最大反復回数を基準にしてトレーニングの強度というものを推定していますが、今回TUTについて記事を書くにあたって、TUTの長さとトレーニング強度にはどのような関係があるのか気になったので実際に実験を行ってみました。
最大筋力を発揮できるテンポとは
そもそも、最大筋力・トレーニング強度を推定する際にはどのようなテンポで行った場合のことを用いるべきなのでしょうか?
ベンチプレスの1RM測定に関して、2020年の研究ではエキセントリック時の時間が2秒か被験者の任意のテンポで行った場合により大きな力が発揮されたと報告しています。
また、著者らは、1RM、つまり最大筋力を測定する際にどのようなテンポで行うべきかという基準を種目ごとに考える必要があると述べています。
ゆっくりとエキセントリック収縮を行うことはコンセントリック収縮のパフォーマンスを下げることは明確であるため、なるべく素早いテンポで行った方が最大筋力を発揮しやすいということです。
これは、最大筋力というものが速筋と呼ばれる瞬発力のある筋肉を利用することからもイメージは付きやすいです。
テンポが変わると強度が変わる?【実験内容】
以上の研究ではベンチプレスにおける1RMを測定することを目的としており、80%1RMの強度から徐々に重量を上げて測定しています。
しかし、自重トレーニングでは容易に負荷を上げることは出来ないため、テンポを上げることで強度を上げることは出来ないかと考えました。
そこで筆者は、テンポと強度の関係性を明らかにするべく2種類のトレーニング種目において異なるテンポの最大反復回数を測定するという実験を行いました。
トレーニング強度と最大反復回数の表を参考に、異なるテンポで行った場合それぞれの最大反復回数から予想1RMの強度を算出し、実際の予想1RMとTUTを見比べどのように強度が変化しているのかまとめてみました。
行ったテンポは5種類です。(エキセントリック時/切り替えし/コンセントリック時/切り替えし)
- 1/0/1/0
- 2/0/2/0
- 4/0/1/0
- 4/0/4/0
そして、以下が結果となります。

1、最大筋力の推定
まず始めに、1/0/1/0で懸垂とディップスを行い最大反復回数を基に1RMの重量を予想しました。
懸垂で103kgと出たので総体重が103kgになるまで加重し、再度懸垂とディップスを行いました。
すると、いずれも自重で行った場合に予想された1RM重量を上回る予想値が出ました。
このことから、高い強度で行うほど最大筋力をより正確に推定することが出来ることが示唆されました。
これは、最大筋力が筋力の瞬発力を必要とし、回数が増えてしまうことで疲労の蓄積が筋力発揮に影響を与えることが考えられるため納得いく結果です。
2、異なるテンポにおける予想強度
懸垂・ディップスそれぞれの1RMを測定するための加重設備が無かったので予想1RMの測定はここで終了しました。
次にテンポを変えてそれぞれの種目を行いました。
結果の表を見ても分かるように、テンポを上げた場合ではいずれも最大反復回数が落ちています。

よって、最大反復回数と強度の表を参考にすると予想強度は上がっていき、予想1RMは低い値になりました。
この結果から、2020年の研究で報告された「1RM測定の際のテンポを統一する必要性」について分かります。
つまり、同じ重量を扱ってもテンポが異なることで「実際の強度」というものが変わるため、最大反復回数を用いて「その種目」における1RMを測定することは出来ないということです。
今回の実験で得られた予想強度・1RM重量というのは、扱った重量を「特定のテンポ」で行った場合のものになるということです。
3、異なるテンポにおける最大反復回数とTUT
興味深いことに、テンポを上げた場合での最大反復回数とTUTの変化率には違いがありました。
1秒1秒から2秒2秒の変化では、最大反復回数が20-30%減少し、TUTは50-60%長くなっています。
仮にTUTが筋肉が力を発揮することが出来る時間だとすれば、テンポが2倍になってもTUTは変わらず、その分最大反復回数は半分となることが考えられましたがどうやら違うようでした。

しかし、懸垂の場合では同じく2倍違う2秒2秒と4秒4秒で最大反復回数が約半分、TUTがほぼ同じ長さという変化を示しました。
また、ディップス・懸垂両方の場合で4秒1秒と4秒4秒のTUTがほぼ同じ長さとなりました。
このことから、2/0/2/0以上のテンポにおいては、テンポの違いによって見かけ上では予想強度・予想1RMが変化するも、実際に筋肉が力を発揮できる時間であるTUTは大きく変わらないということが考えられます。
筋肉が力を発揮できる時間というのが筋肉への刺激量というのであれば、これは前項で触れた2019年の研究と類似した考え方です。
つまり、TUTの長さが重要なのではなくどれだけ自分を追い込めるかということです。
テンポを変えて「強度」と考えられるものを上げたとしても限界まで追い込めばTUTは変わらないからです。
4、TUTの変化と体感疲労度
実際にこの実験を行ってみて、テンポが短い場合の方がより強い筋力を発揮している感覚がありました。
それはもちろん回数でも分かりますが、この場合での限界というのは単純にもう力が出ないという感覚です。
それに対し、テンポを長くした場合ではよりパンプ感を得られたと思います。
ここでの限界は、もう力が出ないという感覚だけではなくジワジワと乳酸が溜まってきて筋肉がパンパンになっていくという感覚もありました。
筋活動を高め、使っている筋肉の意識を高めるという目的以外にもパンプを得るためにTUTを長くするというのは効果的かもしれません。
5、中強度のトレーニングにおける結果でしかない
今回の実験では自重を扱ったため、被験者である筆者にとっては中強度のトレーニングで比較を行ったことになります。
そのため、80%1RM以上の強度で行った場合にどのような結果になるかは分かりませんでした。
特にパンプ感については、今回扱った重量が関わっている可能性も考えられます。
というのも、パンプ感を得るためのトレーニングとしてはコントラクト種目が有名で強度も20回弱ほど出来る重量でというのが一般的な考えです。
今回の実験で扱った負荷重量は、実際の強度としてはコントラクト種目に求められる強度に近いです。
反復回数だけで見ると、1/0/1/0のテンポにおけるディップス・懸垂の両方でコントラクト種目に選んでも良いレベルの強度であると考えられます。
しかし、実際のパンプ感としては反復回数が少なくてもゆっくりのテンポで行う場合の方が感じられました。
この点はもう少し実験してみる必要がありそうです。
TUTを無視しないこと!

- TUTとはTime Under Tensionの略であり、筋肉がトレーニング中に力を発している時間のことである。
- TUTの長さはトレーニング効果に直接大きな影響は与えない。
- 使っている筋肉を意識するためにエキセントリック時の時間を伸ばすことはトレーニングとしては効果的。
- 初心者や新種目を取り入れる場合でも効果的。
- テンポをかけて行う場合の最大反復回数は強度と一致しない。
本記事では、TUTとは何を表すのにかについてまとめてみました。
大切なのは、自分が普段行うトレーニングの中でも強度を比較する場合ではTUTやテンポのことも考える必要があるということです。
TUTという考え方を効果的に取り入れてトレーニングの質を上げていきましょう!
それでは今回はこれで失礼します。
ありがとうございました!